ウィーン留学
Vienna
♪留学までの経緯
留学を志したきっかけ
兵庫県立西宮高校音楽科から京都市立芸術大学に進学し、大学生になった当時は新しい環境に慣れることに精一杯で留学のことは大して深く考えもしていなかったのです。
しかしその後、大学でロシア人の先生に師事したことから、「本場の音楽を学び知る」という留学に対する興味が大きくなり、私の大きな転機となりました。
また、留学を終えた先輩からお話を聞く機会が増え、自分も留学したいと思うようになっていきました。
留学前に海外の講習会へ参加
高校の卒業旅行で、一週間ほどドイツに滞在し、レッスン受講をしたことはありましたが、初めて海外講習会に参加したのは大学2年の夏休みでした。
その講習会は友達数人と申し込み、「皆で行けば怖くない!」という気持ちでオーストリア ザルツブルグに渡りました。
色んな国から渡墺して来ている同年代の演奏を目の当たりにし、焦りにも似た刺激的な時間となりました。
この講習会の経験こそが、留学への第一歩になったことは間違いありません。
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同門のみんなと一緒に食事
日本食が恋しくなり持って行っていたお茶漬けやカップラーメンを食べることも。日本食はホッとします。 -
講習会の合間に先生たちと山登り。
留学することを心に決めた日
講習会でハーバード大学のR.ロバート先生、モーツァルテウム音大のR.プラッゲ先生、フランスのコンサートに賞賛出演した際のストラスブール音楽院では、A.パギン先生、フライブルグ音大ではG.ミショリー先生と色々レッスンの機会が有りましたが、音楽性の相性と言うのでしょうか、結局は、この先生に師事したいというところまでは至らず、留学を見据えながらも大学院進学の道を選びました。
準備として最も大事な留学先の語学は、大学入学当時より個人の先生に習っていたので、〈ドイツ語〉音楽用語や簡単な意思疎通は、それほど困りませんでした。
自分が惚れ込む(自分が師事したい)先生探しのために、ヨーロッパ留学中の先輩方から情報お聞きし、志望校であったウィーン国立音大の先生のCDを探し聴き、HPを見たり、門下生の演奏を聴いたりしました。他にも、ヨーロッパの先生が日本の講習会のために来日された際には、積極的に受講しに行きました。
人気の先生は新しい生徒を取らなかったり、自身のコンサート活動が忙しくてレッスンが無いという話しも聞いていたので慎重に先生探しを続けました。
大学院最後2年の夏、ウィーン国立音大のW.ヴァッツィンガー先生が講習会のために来日された際にレッスンを受けました。
この日、この先生との出会いがあり、私は留学への本当の意味での準備の一歩を踏み出します。
先生のレッスンを受け「この先生に習いたい!」そう心より思えたのです。
先生言葉一つので、「音が変わる!」「音楽が変わる」「しっくりくる!」
レッスン後、私は「あなたの生徒になりたい」とドイツ語で伝えました。すると先生から「それは受験を合格してからの話だ。今日のように弾くことが出来ればおそらく大丈夫だろう。しかし、難しい試験だ」との返事でした。
この日から、入試に向けた本格的な準備が始まりました。練習は勿論のこと、自分を忘れられないように先生へ留学の想いをメールに綴り何度も送りました。
国が違えば当たり前が違う。留学対策が合っているのか不安で仕方がない時も多々ありましたが、「必ず合格する!」「本場の音楽を学び知るんだ!」という強い気持ちだけは絶えず持ち続けました。
♪留学の準備
出願手続きや入試の内容
ウィーン国立音大のホームページで入試情報調べました。分からない所は先輩に聞いたり翻訳サイトで調べたりもしました。
また、必要書類(合格後にビザ取得の為)を揃えるにも時間を要し、何度も役所に行ったり、翻訳家の方に公式書類の翻訳を頼んだりしました。
私は、日本で大学院を修了していたことも有り(大学院修了者のみ受験可能のPostgraduale)を受験できたので実技だけの試験でした。
全部で90分程のプログラムで、四期の作品を演奏しました。前日に集合時間をメールで知らされ、受験当日は、先生の計らいにより練習室をお借りし練習していました。
練習していると、スタッフが来られ部屋を移動しました。
前の受験者の審査中は、控室で練習できるとの説明があったので「まだ集合時間になっていないし、控室で練習できるな」と思いつつ、スタッフに付いて行くと開けられた扉の先は、なな、なんとホールのステージ。まさかの試験会場!!!
試験会場のホールには10名ほどの著名な先生がズラリ。
試験の開始時間が予告も無しに早まっていたようです。海外あるあるのルーズさも、この頃の私は免疫も無く、ただただビックリ!!
人生で一番固まった瞬間でした。
開き直り覚悟を決め、ゆっくりお辞儀をして息を整える。椅子に座ると「何から弾く?」聞かれ、私は得意のシューマンのソナタから演奏しました。最後まで弾き終えると、次に弾く曲を指定され、言われた順番で演奏しました。どの曲も途中で切られると聞いていたけれど、私の場合は全部弾かされた曲もあり、「一体どこまで弾かされる?ストップの声、私が聞き逃してる?」「これ最後まで弾かされる!?」とココでも開き直り精神で。
合否の結果は、その後先生から直接聞きました。「よく弾けていた。合格だよ。でもベートーヴェンが他の曲に比べて良くなかったから、次のレッスンまでにこの曲を見てきて」と合格報告に有頂天な私に、先生は淡々次々と早速多くの課題を出されました。
その後、大学からの正式な書類を事務所に取りに行くと、なんと合格者は2年ぶりだったそうです。
結果的には、練習室と思ったら、試験会場だった事で肩の力が抜けて開き直りの気持ちが功を成したとも言えます。
しかし私は、「この先生に師事し、ウイーン国立音大に留学する!ウィーンに住む!」と言う揺らがぬ気持ちを絶えず持ち続けていたことが一番大きな合格への道だったと思います。
試験会場(旧ピアノ科校舎)
今でも試験当日のビックリ!の経験を思い出すと心臓がキュッとなります。
♪留学中
現地での生活
とにかく毎日が戦いでした。
というのも、銀行口座一つ開設するに何ヶ月も要し、ビザを取るのには半年もかかりました。(ウィーンは現地でしかビザ取得ができない)日本と違って役所がズボラで仕事をしないことも理由の一つですが、ウィーンで外国人が住むには細かいルールに従い様々な書類を提出しなければならないのです。必要書類も全て揃い完璧なのに、現地の怠慢な職員の気分一つで、ビザ取得が一向に進まない
。職員同士で言うことが違うし、日によって同じ人言うことが違う。
最大の問題だったのは、住む家が見つからなかったことです。ウィーンは観光地でもあるため家賃が高額です。増して、ピアノを置ける部屋を探すのはさらに難しく、留学生は寮や帰国する学生から部屋を受け継ぐというのが、一般的で簡単な部屋の探し方でした。
私は留学生が帰国する時期と少しズレて入学した為、なかなか部屋が見つからなかったのです。つまり住所不定。住所不定のために保険や口座開設を開設することが出来なかったのです。
暫く、ホテルを転々としたり、帰国中の日本人の方のお部屋を借りて過ごしていました。
現地のオーストリア人や知り合いに何度も助けてもらい、ようやく部屋が見つかり、滞っていた生活に必要な届けを出すことができました。
やっと決まったお部屋は、贅沢にもシェーンブルン宮殿のすぐ近くで、その裏丘からは、ウィーンの街が一望できるのです。
行き詰まることが 有れば、ここで大きく深呼吸して、自分が外国人である事、留学の意味、留学で成し遂げることを自分に問いかけ、気持ちを整えることの出来たお気に入りの場所でした。
楽しかったことも辛かった事も全てが留学の醍醐味で有り、今もふとシェーンブルン宮殿の裏丘から見た風景を思い出します。
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やっと見つかったウィーンのお家。ピアノはレンタルしました。
朝9時から夜9時まで弾くことができました。 -
大きく深呼吸!シェーンブルン宮殿の裏丘。
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ウィーンの冬は-11℃になる時も
冬は完全防寒。 -
クリスマスの市庁舎。
広場にはクリスマス市場が賑わっています。
体調管理のためにも、毎日自炊をしていました。
アジア料理屋さんも多く、日本食材店もありますが、とにかく値段が高いため(例えば納豆1個6ユーロ/日本円にして780円)現地にある食材を代用し和食を作ったりしていました。
留学生は、日本に一時帰国する度に日本食をトランクいっぱいにして戻ってきます。私も日本食を密売人のように、両手の荷物をパンパンにして戻ってきたものです。
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伝統的なウィーン料理。
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コンビニがない代わりにケバブやホットドッグのお店が多数
ウィーンでのレッスン
音楽漬けの毎日でした。毎回のレッスンに準備する曲が間に合わないほどレッスンは多く充実していました。憧れのドイツ人の先生のレッスンは、一音一音、またフレーズにもとても厳密で、どんなにピアノを弾きこんでレッスンに向かえども、数ページしか進まない事もあり決して妥協も許しもない音楽作りでした。
また、一歩外に出れば、街中に音楽が溢れ、毎日のように世界の音楽家がウィーンでコンサートを開いていました。
一流の演奏が聴ける毎日が夢のようで、音楽が自然な形で生活に溶け込んでいるのです。
ウィーンは、街全体が芸術仕様。歴史と文化が見事に共存し、一流芸術が日常に溢れ身近に触れ感じる事が出来る街。求めるに応じ十分満たされる素晴らしい街。学ぶに贅沢すぎる街です。
とにかく一言で言い尽くせぬ程の素敵な街でした。
ウィーンで学べたことウィーンを選択したことに間違いはなかったです。
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毎日のように通った楽友協会(黄金のホール)
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大学のレッスン室。フルコンサートピアノが2台と練習用のグランドピアノ1台が並べてあります。
練習は時間が許す限り、一日中していました。
自分の部屋にグランドピアノを置いていたので、学校の練習室での練習の後は家で思う存分練習していました。
国際コンクールは受けましたか?
挑戦しました。国際コンクールは、世界中から集まるピアニストが同じ会場で競い合います。
私の受けたコンクールでは、1位の副賞として、コンサートツアーが予定されていました。
ファイナルでは、残った参加者が集まり演奏順を抽選で決めるのですが、全身から凄まじいオーラを放っている演奏者、門下全員で受けにきている団体と色んな受験者が居ました。
強者メンバーの演奏を聴くことにより、一回勝負での完全な表現力、緊張のコントロール力、音楽構成の多様、何より審査されることの覚悟を改めて噛みしめました。
理想とする多彩な音色で、喜怒哀楽の感情を音楽にぶつけ、いかに誠実に音楽向き合うか。これはこれからもずっと終わりなき努力をする私の項目でも有ります。
コンクールの演奏
コンクールは、インターネットで探します。まずはコンクールに申し込み、音源審査に通過すると航空券を買いホテルを予約し、会場までの行き方をネットで調べます。
海外では突然の欠航・遅延が日常茶飯事なので、交通機関の移動の際は常にドキドキしていました。
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コンクールの舞台
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ホームステイ先の練習ピアノ。コンクール中は2週間ホームステイをしました。
共に食事を摂り、ピアノ演奏のプレゼントをして喜んでもらえ家族、家庭の温もり、また会話よりその土地の習慣などを感じることができました。
これは、観光として訪れただけでは感じ取れないと思います。
ウィーン滞在中に旅行はしましたか?
コンクールで各国に行った帰りに観光地を回りました。ヨーロッパのあちらこちらにいる友だちに国境を超えて会いに行ったりもしました。
それぞれの国の名物料理を食べたり、その国の世界遺産などを見たりして、身体全体、五感でそれぞれの国の魅力を感じ取りました。
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ミュンヘンにてミュンヘン音大在籍中の高校•大学の友達と再会。
ビールは1リットルのコップしかありません。私はほとんど飲めませんが頑張りました。 -
ベルギー留学中の友達とモン・サン・ミシェルへ。
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ロマンチック街道制覇!
留学中に得たこと
日本のような曖昧な物言いや感覚が無い。海外では意思をしっかり主張しなければ、割増で食事代を請求されたり、ジプシーに無理やり花をかばんに入れられ、金銭を要求されたりすることがあります。特に私のように日本人で背も低いとそれだけで嫌な思いをすることもあります。しかし、現地の言葉が話せるとわかれば、相手の態度が変わります。
例え、言葉に自信がなくても、嫌なこと、理不尽なことには「NO!」と言わなくてはいけません。その結果、大きなトラブルもなく過ごすことが出来たと思います。
♪留学を終えて
留学中は自分と、とことん向き合い、ピアノの時間を存分に確保できました。ウィーンは日本と比べてクラシックが生活の一部になっているので、必然的にコンサートに行く回数も多くなりました。
大学でも入場無料の学生コンサートが毎日行われていました。
コンサートに出演する際には、先生から数日前に急に知らされることもあり、常に対応できるようにしておく!何があってもドンと構える!とメンタル面でも大きく成長できたと思います。
周りの学生のレベルは高く、メディアに追われる有名な学生も多く、常に向上心を持って良いピアノ演奏を追求できる生活環境でありました。
ピアノを上達するには、本物を知ること、経験することが大切だと身を持って感じています。
「諦めない」「努力と行動 」「強逞しさ」を与えてくれた私の大好きな街ウィーン。
この先の険しいであろう音楽人生に対しても、留学経験でこそ感じ得た全てを音楽に込め、音楽を通して、微力ながら社会に少しでも貢献できたらと思っています。
そして、この留学記が留学を目指す方、ピアノを上達したい方のお役に立てれば幸いです。
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ウィーンで見たミュージカル「I am in Austria」主役のLukas Permanさんと。
世界のレベルの高さにただただ感動。
今、私がミュージカルに携わる上での原点です。 -
帰国当日に「ありがとう、またね」を伝えたシェーンブルン宮殿
とある1日の過ごし方
7:30 | 起床 | ||
8:30 | 登校 | ||
8:45 | 朝練 | ||
11:00 | レッスン | ||
13:00 | 頃 | 昼食(食堂) | |
14:00 | 語学学校 | ||
15:30 | 頃 | カフェで復習 | |
17:00 | コンサート鑑賞 | ||
19:30 | 帰宅(夕食・練習・入浴) | ||
22:00 | 勉強(リスニング・スピーキング・ニュースチェック) | ||
24:00 | 就寝 |